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千葉地方裁判所松戸支部 昭和54年(ワ)286号 判決

主文

一  原告に対し、

1  被告三浦日吉、同柴田三郎は、別紙第一物件目録(一)ないし(六)記載の土地につき、千葉地方法務局流山出張所昭和五四年六月六日受付第九〇八三号の所有権移転登録の、同目録(一)、(二)記載の土地につき、同出張所同月一二日受付第九三七九号の合併による所有権登記の、各抹消登記手続をせよ。

2  被告柴田三郎は、別紙第三物件目録記載の建物を収去して同第一物件目録記載(一)ないし(六)記載の土地を、被告三浦日吉は、同目録(三)ないし(六)記載の土地を、各明渡せ。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は、第一項2の明渡しを求める部分につき仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、別紙第一物件目録(一)ないし(六)記載の土地の所有者であり、右土地はもと別紙第二物件目録(一)ないし(九)記載の土地(以下「本件土地」という。)であつた。

2  ところが、訴外西武信用組合は、本件土地に訴外有限会社千越に対する三〇〇〇万円の債権の根抵当権を有するとして、右債権を請求債権とする不動産競売を昭和五二年四月千葉地方裁判所松戸支部に申し立てた(同庁昭和五二年(ケ)第四四号事件・以下「本件競売手続」という。)。

3  原告は、昭和五四年二月二二日、浦和地方裁判所川越支部に本件競売手続の停止を求める仮処分申請をなし、同日同裁判所より保証金四〇〇万円を供託して右停止を命ずる仮処分決定を得たので、同日右決定正本を前記松戸支部に提出して本件競売手続の停止を求めたが、同裁判所は右競売手続を続行し、同年六月六日頃、競落人である被告らより競売代金を受領のうえ、千葉地方法務局流山出張所に右所有権移転登記の嘱託をしたため、同日付で本件土地に対し、競落により被告らが各二分の一の共有持分を取得した旨の所有権移転登記がなされるに至り、その後被告らは、本件土地のうち(一)ないし(五)記載の土地を、別紙第一物件目録(一)、(二)記載の土地に合筆のうえ更に分筆し、右出張所同月一二日受付第九三七九号合併による所有権登記がなされるに至つたため、現在は右目録(一)ないし(六)記載の土地となつている。しかしながら、競売手続停止決定に違反してなされた競売代金の納入によつては所有権移転の効力を生じないので、競売不動産の所有権は未だ競落人に移転しないから、被告に対する右所有権移転登記等はいずれも無効であり、抹消さるべきものである。

4  なお、別紙第一物件目録(一)、(二)記載の土地は、被告柴田が同目録(二)記載の土地上に別紙第三物件目録記載の建物を建築して、同(一)記載の土地は同建物の付属地としていずれも占有し、また同目録(三)ないし(六)記載の土地は、いずれも更地で被告らが事実上支配して占有している。

5  仮に、被告らへの移転登記が無効であるとの前記主張が認められないとしても、原告は、訴外西武信用組合に対して根抵当権を設定したことはない。即ち、原告は、訴外吉田孝の紹介で、右組合草加支店より三〇〇〇万円の融資を受けることとなり、その際同組合より信用組合の貸付には法的に地域的な制限があるので原告に直接貸し付けることはできないから、右吉田が取締役となり事実上の経営者である訴外有限会社千越を借主とし、原告を物上保証人として本件土地を担保とすることで原告に貸し付けるとのことであつたので、昭和五一年八月一〇日頃、右組合より三〇〇〇万円の貸付を受けるべく、右組合の右支店長に本件土地の登記済権利証、原告の白紙委任状、印鑑証明書等を預け、右貸付金の交付を待つていたものであるが、右支店長は、原告から預かつた右登記済権利証等を悪用し、右千越を債務者とする極度額三〇〇〇万円の根抵当権設定登記をなし、その後原告に無断で右千越に三〇〇〇万円の貸付をして、これを右組合の右吉田に対する不良債権の回収に使い、その後右組合は、右貸付金の返済がないとして右根抵当権の実行をなすに至つたものであるが、原告としては、右に述べたとおり、右根抵当権設定契約は右貸付金が原告に交付されるのと同時に締結し、かつ登記することになつていたもので、未だ右貸付金の交付がないのであるから右契約は締結されていない。

6  仮に、右主張が認められず根抵当権設定契約が成立しているとしても、原告は、自から前記組合より三〇〇〇万円の貸付を受けるため、形式的に前記千越を債務者として本件土地に抵当権を設定することを承諾したものであるから、原告に無断で貸付金が右千越に交付されるのであれば、原告は本件土地に抵当権を設定しなかつたのであり、右根抵当権設定契約は要素の錯誤により無効である。

よつて、原告は被告らに対し、所有権に基づき、被告らは別紙第一物件目録(一)ないし(六)記載の土地につき千葉地方法務局流山出張所昭和五四年六月六日受付第九〇八三号の所有権移転登記および同目録(一)、(二)記載の土地につき同出張所同月一二日受付第九三七九号の合併による所有権登記の各抹消登記手続、並びに被告柴田は別紙第三物件目録記載の建物を収去して同第一物件目録記載(一)ないし(六)記載の土地を、同三浦は同目録(三)ないし(六)記載の土地の各明渡しを、それぞれ求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1  請求原因1、2の事実は認める。

2  同3の事実中、原告がその主張の仮処分決定を得て競売手続の停止を求めたことは不知。被告らが原告主張の日に競落代金を支払い、その主張のような経過で各二分の一の共有持分登記を得たこと、本件土地をその主張のように合筆の上分筆して合併の登記を得たため現在第一物件目録(一)ないし(六)記載の土地となつていることはいずれも認める。その余の事実は否認する。

原告は、昭和五四年二月二〇日、浦和地方裁判所川越支部に本件競売手続停止の仮処分を求める際、既に競落許可決定に対する即時抗告が同月一七日東京高等裁判所において却下されているのに、この事実を主張せず、他方本件根抵当権設定登記は前記吉田が原告の印鑑を偽造し、書面をも偽造等したうえなされたもので無効であると主張する等し、真実をことさら隠して右競売手続停止の仮処分を得たものである。

3  同4の事実は認める。

4  同5、6の事実は否認する。

第三  証拠(省略)

理由

一  請求原因1、2の各事実、同3の事実中、被告らが昭和五四年六月六日に競落代金を支払い、当裁判所が千葉地方法務局流山出張所に本件土地所有権の移転登記を嘱託したため、同日付で右土地に対し、競落により被告らが各二分の一の共有持分を取得した旨の所有権移転登記がなされるに至り、その後被告らによつて、本件土地のうち(一)ないし(五)記載の土地を別紙第一物件目録(一)、(二)記載の土地に合筆の上更に分筆し、右出張所同月一二日受付第九三七九号合併による所有権登記がなされるに至つたため、現在は右目録(一)ないし(六)記載の土地となつていることは、いずれも当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三ないし第六号証、方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第七号証を総合すれば、原告は、昭和五四年二月二二日、浦和地方裁判所川越支部において、金四〇〇万円の保証を立てることを条件として本件競売手続を停止する旨の仮処分決定を得、右決定正本を同日当裁判所に提出し、右競売手続の停止を求めたこと、当裁判所において、同年五月一五日、右競売の競落代金支払期日の指定が同年六月一一日午後二時とされ、さらに、同年五月二五日、右指定は変更されて同月四日午後二時とされたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、任意競売手続の進行中、競売手続の停止を求めてこれが停止を認める決定正本が執行裁判所に提出されたときは、執行裁判所としては以後の競売手続を停止しなければならないから、右正本が競落許可決定後その代金支払前に提出されれば、その後の手続である競落代金の受領をすべきでないことになり、右停止に違反して競落代金が納入されたからといつて、右納入は何らの効力を生じるものでもなく、これにより競落不動産の所有権が競落人に移転することはないと解すべきである。

これを本件についてみれば、原告は、被告らにおいて本件土地の競落許可決定を受けて後、その代金支払前に右競売手続を停止する旨の仮処分決定を得、右決定正本を当裁判所に提出して右競売手続の停止を求めたものであり、被告らの代金納入は右正本の提出された後になされたものであることが明らかである。そうすると、右決定正本の提出により、右競売手続は停止され、当裁判所としてはその後の手続をなし得ないものであるから、被告らにおいてその後競落代金を納入したからといつて、本件土地に対する所有権を取得する余地はないというべきである。

なお、仮に、原告が被告ら主張の如き経過で右仮処分決定を得たものであるとしても、それは右仮処分の手続内において争わるべき性質のものであり、当裁判所としては、右のとおり競売手続停止の仮処分決定正本が提出された以上、その後の手続を停止すべきであるから、右被告らの主張は採用し得ない。

ところで、被告柴田が別紙第一物件目録(二)記載の土地を同第三物件目録記載の建物の敷地として、同第一物件目録(一)の土地を右建物の付属地としていずれも占有していること、被告らが同目録(三)ないし(六)記載の土地をいずれも占有していることは当事者間に争いがない。

二  右に述べたところによれば、原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

別紙

第一物件目録

(一) 流山市西平井字中提四〇二番二

一 宅地 一一八・六四平方メートル

(二) 同所同番一九

一 宅地 一一六・八一平方メートル

(三) 同所同番一五

一 宅地 七九・九七平方メートル

(四) 同所同番一六

一 宅地 五五・八四平方メートル

(五) 同所同番一七

一 宅地 九・七九平方メートル

(六) 同所同番一八

一 宅地 九・七九平方メートル

第二物件目録

(一) 流山市西平井字中提四〇二番二

一 宅地 二〇・二二平方メートル

(二) 同所同番一一

一 宅地 七五・一三平方メートル

(三) 同所同番一二

一 宅地 六四・六七平方メートル

(四) 同所同番一三

一 宅地 六四・六三平方メートル

(五) 同所同番一四

一 宅地 一〇・八一平方メートル

(六) 同所同番一五

一 宅地 七九・九七平方メートル

(七) 同所同番一六

一 宅地 五五・八四平方メートル

(八) 同所同番一七

一 宅地 九・七九平方メートル

(九) 同所同番一八

一 宅地 九・七九平方メートル

第三物件目録

流山市西平井字中提四〇二番地一九所在

家屋番号 四〇二番一九

木造瓦葺二階建店舗居宅

一階 六二・九三平方メートル

二階 二六・四九平方メートル

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